最近の旅客機はほとんど自動操縦
そう聞くと、どんなふうに想像します?
一度自動操縦のスイッチを押したら、着陸直前までパイロットは何もしなくていいんじゃない?
そう思ってらっしゃる方もいるかもしれません。
今日はパイロットと自動操縦の実際を僕の経験を踏まえながら書いてみようと思います。
旅客機は自動操縦だからパイロットは暇?
結論から言うと、コレは違います。
実は、自動操縦が飛行機を飛ばしているんじゃないんです。パイロットが自動操縦を使って飛行機を飛ばしてるんです。自動操縦の使い方って物凄く奥が深くて難しいんですよ。意外でしょw
自動操縦の使い方がヘタだと
オマエは自動操縦に乗せられてんな
とキャプテンからお叱りを受けるんです。
(あ、そういえばこの表現、海外じゃあんまり聞かないな。日本人特有の言い方なのかな?)
パイロットが自動操縦にやらせっぱなしだとどういうコトになるのでしょうか
いくつか例をあげてみましょう。
冬の日本で強い向かい風を受けて上昇中...
ご存知かもしれませんが冬の日本の上空はジェット気流の通り道になっています。
ですから、巡航高度に向けて高度を上げていくと、向かい風がドンドン強くなります。(西向きに飛んでいる場合)
すると、対地速度は遅くなりますが、対気速度は増えます。
自動操縦は対気速度を下げるために機首を上げてより大きな上昇率を得ようとします。つまり、運動エネルギーを位置エネルギーに換えようとしているわけです。
しかし、風の変化が急激な場合自動操縦はソレを追従できません。(敢えてそういう設定にしてあります)
そういう時はパイロットがより低い速度を設定する、あるいはマニュアルで推力を絞る、極端な場合はスピードブレーキを使ったり自動操縦を外してより機首を上げたりしなければなりません。
さもないと対気速度が制限値を超えてしまいます。
日本人パイロットは日本の空をよく知っているので、強い向かい風に入ってしまう前にあらかじめ対気速度を下げることが多いと思います。つまり、難しい状況に入ってしまう前に、対策をとっているわけです。
対気速度と対地速度って?
飛行機には色々な速度がありますがこの2つはパイロットがよく使う速度です。
例えば、風の無い中、自転車に乗っているとします。
自転車は快調に前に進み、あなたも爽やかな向かい風を受けています。しかし、突然つよい突風を前方から受けると、自転車の速度は落ちますよね。これが、対地速度が遅くなった状態です。
一方、突風のせいであななは目を開けることができません。つまり、向かい風が強くなったせいであなたが感じる空気の流れの速さは増しているわけです。かなり大雑把な説明ですが、これが対気速度が増えている状態。
あまりに対気速度が上がるとあなたが目を開けられないのと同様、飛行機も対気速度が増えすぎると困るので、制限値が設けられているんです。
ゴーアラウンドの際、機首が上がりすぎて大きく減速
ゴーアラウンドとはこういうやつです。(50秒あたりがわかりやすいです)
つまり、なんらかの理由で進入あるいは着陸を取りやめ上昇すること。
昨年、視程が悪いなか着陸を試みたのですが、結局滑走路が見えずにゴーアラウンド。そのとき自動操縦だったんですが、なぜか機首が上がりすぎて速度がVls(ブイエルエス)を切りそうに!
これより下は失速に近い速度ですので、Vlsを下に切ってはいけません。しかし放っておくと切ってしまう可能性があったので、自動操縦を解除しマニュアルで操縦しました。
ちなみに動画のような強風の場合、自動操縦での着陸は不可能である場合が多いです。
もう少しマニアックな状況
もしかするとこれからエアバスのTypeを取る読者さんがいらっしゃるかもしれないので、もう少しマニアックなヤツを笑
このGAのケースでMiss App ALTが2,000〜3,000ftの時は注意が必要です。
なぜなら、ピッチが上がりすぎた所でALT*になると、その瞬間のピッチが固定されてしまうから。既にGA THRが入っているので、この状況になると誰もスピードを見ていないコトになり、アッサリVls切る可能性あります
おそらくVS KNOBを押してLevel offしようとしてもG controlのせいで間に合いません。よって、AP外してピッチ下げるべきなんじゃないかと。これは実際、僕の友人に起こったケースです。
実機はSIMにはない挙動をすることがあります。また、A321やA319はA320ではないような挙動を示すことがあるようですので気をつけてなければなりません。
自動操縦には土台無理な進入経路
そもそも自動操縦にそのままやらせたら明らかに無理やん!
という場合もあります。例えばマカオのSMT5Bアライバル。
詳しくはボーイングで言うところのVNAV PATH、エアバスで言うところのDESについて説明しなければならないのでここでは省きますが、このアライバルを何の工夫もせずに自動操縦にやらせた場合、緑で囲んだINDUSやMC514で250ktsを超過しスピード違反になってしまうんです。
あるいは、VNAV PATHやDESのようなMODEを使わずFLCH やOP DESを使った場合、スピードブレーキ無しでは8,900ftや6,900ftという高度制限を守ることができまません。機首によってはフラップを出して降りてゆきます。
ホットエアマスに入ってあわやVlsを切りかけた
こちらは知り合いの機長談。フィリピンの空域で巡航中、突然ホットエアマス(暖かい空気の塊)に入り、速度がVls付近まで一気に下がったそうです。
どういうことかというと、暖かい空気は空気密度が薄いため、空力性能やエンジン性能が悪くなってしまうんです。
人間が富士山に登ると空気が薄くて調子出ないのと一緒です。
自動操縦はエンジン推力を最大まで上げましたが、それでも速度は回復せず、緊急自体を宣言して高度下げなきゃダメかな、と思った瞬間ようやく少しずつ速度が回復し始め、事なきを得たそうです。
また、気流の変化については以前こんな記事を書いていました。これは気流の乱れが大きすぎで自動操縦による追従ができなかった典型的な例です。
パイロットと自動操縦は持ちつ持たれつ
以上、自動操縦が対応できない状況をいくつかあげてみました。思いつくままに列挙しましたが、速度に関することばかりですね(笑)
コレだけ見ると、なんだか自動操縦をdisってるみたいですけど、そうじゃないんです。自動操縦はパイロットのワークロードを劇的に下げてくれるスグレモノ。
例えば、自動操縦無しで長距離を飛ぶのはキビしいです。
また、先程の動画のような天候では自動操縦による着陸は難しいですが、一方で視程が極端に悪い場合は自動操縦での着陸が必須です。
更に、機体の不具合や急病人の発生で緊急着陸する場合、パイロットはものすごく忙しくなるので、自動操縦の力を借りなければなりません。 (もちろん、自動操縦が故障した場合の訓練も受けていますが)
人間は完璧にはなり得えません。
同じように、自動操縦も完璧ではないというだけの話。
パイロットと自動操縦は、お互いの欠如を補い合うような関係にあるというふうに言えると思います。